弁護士からみた一般民事と企業法務の違い

0 前提

司法試験の合格発表もあり、これから就活等も始まっていくと思うので、私の経験や知見からみた一般民事と企業法務の違いを書いていきます。なお、「一般民事」と書きましたが、家事や刑事を含むいわゆる街弁業務を想定しています。また、「企業法務」については、企業法務を取り扱う法律事務所を想定しており、いわゆるインハウスは想定していません。

当然ですが、以下に述べるものは、あくまでも私個人の経験や知見に基づくものであり、事務所ごとに、また、世代によっても事情が異なる部分は多いと思います。そのため、弁護士を志す方には、他にもいろんな弁護士の話を聞いてみることをお勧めします。

ちなみに、諸々忙しい中でメモ書きのように書いたものをそのままアップしているので、この記事は、今後アップデートするかもしれません(その際は、会員限定記事にするかもしれません。)。

 

1 案件対応の仕方

事務所や案件によってもよりますが、一般民事は一つの案件に対して弁護士が一人(ボス弁などが初回相談や要所で出てくることはあっても、主な対応者は一人)で対応することが多く、企業法務は一つの案件に対してグループ、つまり、複数人で対応することが傾向としては多いと思います。

 

2 独り立ちまでの時間

「1」に起因するところが大きいと思いますが、一般民事の方が独り立ち(案件を一人または主担当として回すようになる)までの期間が短い場合が多いと思います。一般民事は1~2年目で独り立ちすることも珍しくないと思いますが、企業法務ではそういったことはほとんどないと思います。

 

3 忙しさ

これは本当に事務所によりますが、傾向としては、企業法務の方が忙しい印象です。物理的な労働時間もさることながら、上記のとおり、複数人(グループ)で対応することが多い結果、特に新人・若手のうちは、自分で時間のマネジメントを行うことが難しい(上の弁護士に合わせる必要がある)という側面もあります。

ただし、新人時代に限っていえば、何をするにも時間がかかってしまうのが通常なので、分野を問わず忙しい場合が多いでしょう。

 

4 報酬・待遇

これも当然事務所によります。一般的には、(少なくとも新人・若手のうちは)企業法務の方が稼げるイメージがあるように思いますが、実際はそうでもないと思います。企業法務系事務所は、最大手事務所とそれ以外の事務所に大きく報酬(初任給だけでなく昇給幅も)の開きがある印象で、中小事務所はもちろんのこと、いわゆる準大手といわれるようなところでも、最大手との報酬の差は結構ある印象です(もちろん、中小事務所でも、最大手と同水準、または、最大手より好待遇の事務所も存在します。あくまでも傾向としての話です。)。

一般民事については、一昔前までは、企業法務より報酬が低かったイメージがありましたが、最近は某新興大手事務所のように若手のうちからかなり高額の報酬をもらえる事務所もあり(そして、そういう事務所に行く人が多くなったこともあり)、また、そういう事務所に対抗するために他事務所も報酬を上げてきていることから、(最大手を除く)企業法務との差は縮まってきていると思います(なんで最大手を除くんだって話ですが、最大手に行く人で、一般民事と企業法務のどちらを選ぶかで悩むような人は少ないと思うので除いています。まあ、恣意的といえば恣意的です。)。また、「5」で述べる個人事件も合わせると売上はさらに高くなるので、私の印象では、「一般民事より企業法務の方が稼げる」という印象はあまりありません(繰り返しますが、恣意的に最大手を除いていますので、その点は誤解のないようにお願いします。)。

 

5 個人受任のしやすさ

個人受任は、企業法務案件に比べて、一般民事案件の方が圧倒的にしやすいと思います。また、企業法務系の法律事務所はそもそも個人事件受任不可としているところも多いです。

私自身の経験でいえば、弁護士の友人の多くが企業法務系事務所にいることもあって、新人の頃からコンスタントに弁護士の友人からの紹介で一般民事案件を受任しています。

 

6 顧客対応

実は、一般民事と企業法務は、顧客対応が最も大きな違いなのではないかと思っています。

⑴ 窓口対応

まず、一般民事は、「1」や「2」の関係もあって、割と早いうちから新人が顧客窓口となることが多いです。これに対して、企業法務は、新人・若手が顧客窓口になるまである程度時間を要することが多いと思います。

⑵ クライアント対応の仕方

一般民事と企業法務の両方をやっている身からすると、ここが最大の違いだと思います。一般民事は、案件の帰趨がその人の人生に直結する場合が多く(もちろん企業法務にも、企業の行く末に関わる事案は多くあります。)、また、法的なところとは関係のない感情的な問題が絡むことも多いです。したがって、一般民事では、必然的に、クライアント(や相手方)が感情的になったり、法的に困難なことを求められることも珍しくありません。一般民事を扱う弁護士には、そういった感情を適切にコントロールする能力も求められます。これに対して、企業法務では、クライアントが感情的になることは、(全くないわけではないものの)比較的少ないといえます。

また、一般民事のクライアントは法的知識が乏しい場合がほとんどであり、さらには、上記のとおり感情的になっている結果、感情的な判断をしがちな傾向があることから、弁護士には、クライアントの意向をサポートするだけでなく、積極的にクライアントを「導く」ことも必要になります。これに対して、企業法務の場合には、(特に大企業のクライアントであれば、)法務部などの法的素養のある人が窓口になっていることが多く、また、企業の場合には感情よりもビジネス的な判断で物事を進めることが多いことから、弁護士には、企業の実現したいことをサポートする役割が求められていることが多いでしょう(企業法務にもクライアントを導く側面があることはもちろん否定しません。あくまでも比較の問題です。)。

⑶ 連絡手段

一般民事は、クライアントとのやりとりにおいて、対面または電話を多用します(ちなみに、一般民事においては、相手方弁護士との連絡はいまだにFAXのことも多いです。)。法的素養のない方に内容を理解してもらい、また、感情的な部分も含めた話をするためには、口頭のコミュニケーションの方が優れている場合が多いことと、クライアントにITリテラシーが高くない方が多いことが主な理由だと思います。

これに対し、企業法務の場合は、メール(やチャット)のやり取りが多いですし、打ち合わせをする場合にもオンラインで行う場合が割と多いと思います。

 

7 独立のしやすさ

一般民事の方が独立しやすいのだと思います。「1」「2」で述べたとおり一人で対応する場合が多く、独り立ちも比較的早いこと、「5」で述べたとおり受任のハードルが比較的低いこと、ポータルサイトをはじめとしたネット集客との親和性が企業法務と比べて高いこと等が理由として挙げられると思います。私の同期でも、一般民事メインで独立している人はそれなりにいますが、企業法務メインで独立している人は少数です(いるにはいます。)。

 

8 転職のしやすさ

少なくともアソシエイトとしての転職は、企業法務の方がしやすい印象はあります。一般民事だと、伝統的には、ある程度の年次になると独立する人が多く、年次が進んだ弁護士をアソシエイトとして雇うという発想が企業法務ほどは定着していないのかもしれません。ただし、これについても、新興事務所の成長によって近年傾向が大きく変わってきている印象もあるところです。

次に、他分野(一般民事から企業法務、企業法務から一般民事など)への転職についてですが、まず前提として年次が上がれば上がるほど他分野への転職は難しくなります。ただ、印象としては、「企業法務から一般民事」への転職の方が、「一般民事から企業法務」への転職よりも容易な印象です(あくまでも転職のしやすさという観点です。企業法務をやっていた人が一般民事の案件処理を身に付けるまでの過程はかなり大変だと思います。)。

とはいえ、最近は売り手市場もあって、一般民事事務所からインハウスへの転職組も多く、一般民事から他分野への転職の道が閉ざされているわけではありません。あくまでも相対的な話だとお考えください。

執筆者: 弁護士ハバノ 認証済弁護士
弁護士(東弁)。かなめ総合法律事務所所属。クロスロー株式会社の代表取締役としてX-Law.net(クロスローネット)を運営中。元ベリーベスト法律事務所東日本エリアマネージャー。法律事務所の口コミサイト「Lawyer’s lNFO」創設メンバー。Fordham Law卒
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