弁護士業界におけるネット集客は悪か?

 そもそもネット集客(集客の手法ではなく、ネット集客をすることそれ自体)が批判的に捉えられている業界も珍しいのではないかと思うのですが、弁護士業界は、いまだに、「ネット集客=悪」と捉えられている風潮が残っているのではないかと感じます。

1 「ネット集客=悪」と捉えられている理由

 そもそも、ネット集客=悪と捉えられているのはなぜなのでしょうか?

① 案件処理が粗末だから

 私は弁護士になって10年目ですので正直詳しくはないのですが、弁護士広告が本格的に解禁したのは、2000年のことだそうです。で、その後2006年にいわゆる過払いバブルが始まります。

 過払いバブルの頃、一部の法律事務所がネットに広告を出して大量に集客するという手法を始めました。そして、こういった事務所の一部は、大量に集客した案件を処理するため、弁護士自身は処理にほとんど関わらず、ほぼ全て事務員任せという案件処理を行っていたそうです。結果として粗末な案件処理が行われ、依頼者が不利益を被ることになった、ということのようです。「ネット集客=悪」というイメージはこの辺りから始まったのではないでしょうか。

 現在では、弁護士自身が処理にほとんど関わらないというような事務所は昔より減っていると思いますが、定型的・効率的な案件処理のために、緻密さを犠牲にするようなやり方をしている事務所はまだ存在するかもしれません。

② 案件処理が稚拙だから

 また、近年、ネット集客をする事務所は、弁護士登録から間もない弁護士が案件処理にあたる法律事務所が多い傾向があるように見受けられます。

 このような経験に乏しい弁護士の相手方となった弁護士、あるいは、そういった経験の乏しい弁護士が処理しきれずに辞任や解任に至った後に案件を引き継ぐことになった他事務所の弁護士が、そういった事務所の案件処理の稚拙さを目の当たりにすることで、そういった事務所に対して批判的な意見を持つに至ったものと想像します。

③ 情報の非対称性に付け込んでいるから

 当たり前のことですが、マーケティング力と弁護士としての案件処理能力は全くの別物です。

 一方で、依頼者(特に、企業でなく個人の依頼者であればなおさらです。)が弁護士の案件処理能力を把握することは困難です。結果として、多くの人が、「きれいなHPがあるから」、「Googleで検索して上位にいるから」、とかそんな理由で、マーケティング力の高い弁護士を選びます。 

 上記のとおり、そういった事務所は、案件処理が粗末だったり稚拙だったりすることがあるかもしれませんが、そういったことは依頼者の視点からはわかりにくいものです。こういった情報の非対称性に付け込むやり方が非難の対象になった部分もあるのではないかと思われます。

④ 顧客・案件を奪われたから

 かつてネット集客などという手法がなかった時代の弁護士からすれば、ネット集客によって顧客・案件を奪われたという意識ももしかするとあるのかもしれません。

2 本当に「ネット集客=悪」なのか?

 上記に述べた理由は、私が直接経験していないことも含みますが、それなりに多くの弁護士から聞いてきた話なので、概ね事実なのかなと思っています。

 では、果たして、本当に「ネット集客=悪」なのでしょうか?以下では、私が考えるネット集客のメリットを述べていきます。

① 事務所が案件種類を選びやすい

 案件処理が稚拙で、依頼者に不利益を被らせることは、弁護士としてやってはいけないことだと思います。おそらく私以外の多くの弁護士もそのような考えを持っていると思います。

 この点、ネット集客は、弁護士が自身の得意な分野の案件、処理経験が豊富な分野の案件に絞って集客することに親和的です。一方で、知人からの紹介といった伝統的な顧客獲得手法の多くは、紹介を受ける案件の種類を弁護士の側から選別するのは(もちろん手法によっては不可能ではありませんが、)比較的難しい場合が多いでしょう。その意味で、ネット集客は、自身の得意な分野、ひいては、クオリティの高い案件処理を依頼者に提供することに親和的であると思います。

② 同種案件の大量受任大量処理によって即時にノウハウの蓄積がしやすい 

 ①に述べたところと重なる部分もあるのですが、案件を選べる結果として、同種案件をまとまった期間に(処理しきれる範囲の量であることが前提ですが、)大量に受任し、大量に処理することが可能です。私は、弁護士の業務は、経験しないとわからない部分がある(座学にはどうしても限界がある)と思っており、やはり案件処理の経験を積むことが弁護士の案件処理能力を上げる最も有効な方法だと思っています。

 その意味で、ネット集客は、弁護士が特定分野の案件処理能力を上げることに親和的であると思います。上記「1」「②」で述べた「案件処理が稚拙」な法律事務所も、5年後10年後には、トップクオリティの専門化集団になっている可能性もあるのではないかと思います(もちろん、現時点においてクオリティの低い法律事務所の“犠牲”となる依頼者が出ることを容認する趣旨ではありません。経験のある弁護士が経験の乏しい弁護士を監督するなどの方法により、こういった依頼者が出ない仕組みの中で経験を積ませることが必要だと思います。)。

③ 実績のアピール(外部発信)がしやすい

 上記のとおり、マーケティング力と弁護士としての案件処理能力は全くの別物なわけで、依頼者には案件処理能力の部分は非常に分かりにくいといえます。

 しかしながら、ネットを使うことで、弁護士が自身の実績を外部に発信し、依頼者にアピールすることが可能です。むしろ腕に覚えがある弁護士こそ、実績やノウハウを活かし、他の弁護士には容易に真似できないコンテンツをネット上に公開することで、マーケティング力だけの弁護士を淘汰していくのが理想だと思います。

④ これまでリーチできなかった顧客にリーチできる

 上記「1」「④」で述べた、案件を奪われたという点については、たしかにそういった側面もあったのかもしれませんが、それ以上にネットがなければそもそも弁護士に依頼しなかった顧客層からの依頼を発掘した側面もあるのではないかと思っています。

 ネット集客をする事務所がパイを奪った面ばかりに注目が行ってしまっているように思いますが、こういった事務所が弁護士業界全体のパイを広げたこと自体は純粋な功績として評価されてよいことだと感じます。そして、より幅広い層に遍くリーガルサービスを提供すること、提供できるように努力することは、社会正義にも資することでもあるように思います。

3 結論

 以上のとおり、「ネット集客は悪か?」という問いには、私は、当然「悪ではない」と思っています。
 とはいえ、ここに書いたことは、私の個人的見解に過ぎず、様々な意見があることは承知しています。この記事が何かを考えるきっかけになれば幸いです。

執筆者: 弁護士ハバノ 認証済弁護士
弁護士(東弁)。かなめ総合法律事務所所属。クロスロー株式会社の代表取締役としてX-Law.net(クロスローネット)を運営中。元ベリーベスト法律事務所東日本エリアマネージャー。法律事務所の口コミサイト「Lawyer’s lNFO」創設メンバー。Fordham Law卒
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